M&Aによる進出において、最も一般的なのは株式譲渡である。
M&Aに適用される重要な法規制、実務上の流れ、契約の概要について記載していくこととする。
まずは法規制に関して。
【外資規制】
①プライシング・ガイドラインズ
インド人居住者・非居住者間において、インド法人の株式の取得に関する取引を行う場合、居住者に不利な取引にならないよう、価格規制が存在し、これをプライシング・ガイドラインズ(Pricing Guidelines)と呼ばれている。
これは、1999年外国為替管理法の下位規則に基づき、「公正な価格」よりもインド居住者が不利な取引となる場合、当該取引には、インド準備銀行(Reserve Bank of India、略称:RBI)の事前承認が必要となるという規制である。
そして、「公正な価格」については、まず、対象会社が上場会社の場合、直近26週の各週次株価終値平均または直近2週の各週次株価終値平均のいずれか高い方の価格となる。
非居住者が買主となる場合には、これら以上の価格で買わない限り、非居住者が売主となる場合にはこれら以下の価格で売らない限り、インド準備銀行(RBI)の事前承認が必要となる。
次に、非上場会社の場合の「公正な価格」とは、以前は、Discount Cash Flow(DCF)法により算定された価格のみが許容されていたが、2014年の規制緩和により、「国際的に認められた価格算定方法による」という基準に変更されている。
ただし、具体的にはどのような場合には当該基準を満たすことになるのかについて指針等は存在しないため、実際上は、特定のインド会計士または商業銀行が「国際的に認められた価格算定方法」であるという意見を示す限りにおいて、DCF法以外の株価算定方法も許容されるようになったと理解されている。
一方、売買当事者が双方ガイドライン居住者間、または双方インド非居住者間の場合、プライシング・ガイドラインズの適用はない。
実務上は、非居住者がインド法人株式を購入する際、当事者間の交渉の結果、相当程度のプレミアムが支払われることが少なくないため、プライシング・ガイドラインズの適用はあまり問題にならない。
逆に、非居住者がインド法人株式を売却する際では、プライシング・ガイドラインズの適用により(インド準備銀行の事前承認を得ない限り)売却価格の上限が定められてしまい、非居住者にとっては不利な状況を感受しなければならない局面もあり得る。